墓じまいの費用は誰が払うのか
条文が名指ししているのは、墓地の「使用者」です。ただしそれは、兄弟でいくらずつ出すかを決めた規定ではありません。
まず民法897条。お墓の話でいちばんよく引かれる条文です。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
第2項はこう続きます。
前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
読んで分かるのは、承継する人の決まり方だけです。撤去にいくらかかるとも、それを誰が出すとも書いていない。「費用」という語が897条には無い、というのがこの記事の出発点です(e-Gov法令検索・2026年9月11日確認)。
では費用の語はどこにあるのか。条例のほうにありました。
朝来市の条文にある「使用承継者」という語に、目を留めてください。使用者が亡くなったあと、名義を引き継いだ人という意味です。
相続した人が払うのか。相続放棄をしたらどうなるのか
お墓は相続財産と別枠だ、というのが公的な説明です。ここは、費用の話ではなく承継の話であることに注意して読んでください。
897条は「前条の規定にかかわらず」で始まります。前条、つまり896条はこうです。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続の一般的な効力を定めた条文で、897条はそこから外れる、という書き出しになっている。
祭祀財産とは、墓や位牌など祖先を祭るための財産のことです。この扱いを、家庭裁判所が一般向けの文書で説明しています。福岡家庭裁判所の「遺産の範囲について」の(5)。
祭祀財産(祭具・墓など) 相続とは別の基準(慣習)で承継されるものであり,遺産分割の対象にはなりません。慣習が明らかでなく相続人間でも決められないので家庭裁判所の調停で話し合いたいという場合には,別に祭祀承継者指定の申立てが必要です。
岡山家庭裁判所の「遺産分割手続Q&A」にも同じ趣旨の記載があります。遺産分割の話し合いの席にお墓を持ち込んでも、その手続きの対象にはならない。決められないなら別の申立てになる、という整理です。
法テラスの公式FAQも2問、同じ方向を向いていました。
「祭祀財産」とは、墓、家系図、位牌などの祖先を祭るための財産のことです。祭祀(さいし)財産は、所有していた者の相続財産とは別に、被相続人の指定、慣習又は家庭裁判所の手続きにより、承継人が決定されます。
もう1問が、相続放棄をした人からの質問への答えです。
これらの財産は、祖先を祭るための「祭祀財産」であり、相続の対象ではありませんので、相続放棄をしても受け継ぐことができます。
この一文は、放棄をしても仏壇やお墓を受け継げる、という説明です。「相続放棄をしても費用を払う」と裏返して読める材料は、今回当たった公的資料の中にはありませんでした。 受け継げるかどうかと、誰が出すかは、別の問いです。
決められないときの窓口が、上の家裁Q&Aに出てくる祭祀承継者の指定の申立て。名古屋家庭裁判所の「申立添付書類等一覧表」では、こういう名前で載っています。
祭祀に関する権利の承継者の指定
収入印紙は1,200円、添付書類に「⑥祭祀財産の目録」「⑦財産に関する証明書(不動産登記事項証明書,墓地の使用権の証明書等)」が並んでいました。裁判所のサイトには、この手続きの一般向け案内ページが見当たりません。書類の中身が読めたのは名古屋家裁の表だけなので、ほかの家裁でも同じかどうかは分からない、という範囲で受け取ってください。ご自分の事情に当てはまるかは、弁護士や法テラスへ。
兄弟や親戚で分けるものなのか
分け方を決めた規定は見つかりませんでした。実際にどうなっているかは、当事者の書き込みを数えるしかありませんでした。そこで知恵袋を読みました。
いちばん下の1件が、10スレッドの中で結末まで書かれた2件のうちの1つです。約50万円・4体の墓じまいで、甥にあたる質問者が叔父に折半を求め、断られ、最終的に叔父側が5万円ずつ計10万円を出した。残りの約40万円は、墓を管理している側に残っています。折半を求めて、5分の1になった例。
もう1件は2026年5月の相談で、寺から魂抜きの費用を一柱10万円から20万円に上げると言われたケースです。交渉で額は10万円に戻りましたが、動いたのは金額だけで、出す人は変わっていません。
3人姉妹の相談は「後は姉妹で話し合ってみようと思います。」で終わっていました。寺から永代供養墓への移転に100万円と言われ、墓石の処分は指定業者、姉妹3人では出せない、という状況です。長女の相談は、寺から年1万円ほどの管理料が自分だけに来る、というものでした。
ここで相場を書きません。書けないからです。厚生労働省の「墓地経営・管理の指針等について」を開いても、原状回復や撤去という語が出てきません。全国優良石材店の会の第38回調査(2025年)に載っているのは墓石を買うときの価格で、墓じまいの設問そのものが立っていない。検索結果の1ページ目に並ぶ相場の幅が、どの調査から来ているのか。公的な資料の側からたどることはできませんでした。
寺と役所では、名前が載る場所が違う
公営墓地なら条例、寺院や民営の墓地なら使用許可証と契約書です。同じ墓じまいでも、根拠にする紙が違います。
公営墓地は、ここまで見てきたとおり。返還の届出と原状回復が条例に書かれていて、名前が挙がっているのは使用者です。
寺院はどうか。離檀料について、国民生活センターのよくある質問(1142番)に答えがありました。
離檀料は、寺にお礼として支払うお布施の意味を持つもので、現状は、料金に明確な基準はありません。基本的には、当事者間で話し合うこととなります。
掲載は2023年10月24日、更新は2026年1月9日。基準が無い、と公的機関が書いている点が大事です。同じFAQの別の番号も見ておきます。1140番は、指定の石材店以外での工事を認めないと言われた相談への答え。
公営墓地以外では、提携している石材店を指定されることが一般的で、消費者が石材店を自由に選ぶことは難しいのが現状です。必ず事前に見積もりを取り、不明な点は確認し、納得したうえで工事を依頼しましょう。
1138番は、未使用の墓地を解約したいという相談への答えで、墓地の契約の性質をこう書いています。
墓地の契約は、墓地の購入ではなく区画を使用する権利を得る契約です。一般的には、自己都合による解約の場合は返金されません。契約書や使用約款で、解約に関する規定を確認しましょう。
つまり寺院・民営では、条例の代わりに使用許可証・契約書・墓地の規則を読むことになります。名義人が誰か、離檀料や撤去の扱いがどう書かれているか。紙が手元にないなら、管理者に控えを求めるところからです。
話し合いの前に確かめる3つ
名義、戻るお金、見積の宛名。この3つは、兄弟に切り出す前に自分で調べられます。
①使用許可証の名前。 親のままになっていることがよくあります。公営墓地の条例には「使用者又は使用承継者」という書き方があり、承継の手続きが済んでいるかどうかで窓口の案内が変わります。許可証、納付の控え、管理料の請求書。どれか1枚を探して、名前と日付を確かめてください。
②戻るお金があるか。 公営墓地を返すと、納めた使用料の一部が戻る「還付」の規定を持つ自治体があります。市が新しく出す補助金とは別のお金で、条件と率は市ごとにばらばらです。兵庫県の41市町を確認した記事では、還付の規定があったのが14市、そのうち条文に「未使用」の条件が付いていないのが8市でした(2026年9月10日時点)。埼玉県の63市町村の記事には、還付と撤去費の助成と合葬墓の受け入れが「補助金」の一語で混ざりやすいことを整理してあります。条文の型の見分け方は群馬県の記事、政令市を含む県の当たり方は愛知県の記事に。いずれにしても、戻る額より先に出ていく撤去費のほうが大きくなるのがふつうです。
③見積の宛名を誰にするか。 石材店の見積書に誰の名前を書いてもらうか、家族で先に決めておくと、あとの話が具体的になります。ここでひとつ、書けない線があります。見積の宛名がそのまま費用を出す人だ、とは言えません。契約の相手と、家族の中の分担は、別の話だからです。宛名は事務の話、分担は話し合いの話。分けておいたほうが揉めにくいと思っています。
石材店や寺に見積もりを頼む前に確かめること
業者に連絡する前に、名義と家族の分け方、そして墓地との約束ごとを手元で確かめておきます。
決まらないとき、払う人がいないとき
窓口は家庭裁判所と、法テラスや弁護士です。放置という選択が何を招くかは、条例の側に書いてあります。
話し合いで承継する人が決まらないときは、家庭裁判所の祭祀承継者の指定の申立て。費用の分け方そのものを決める手続きとして紹介されているわけではないので、そこは混ぜないでおきます。
放置したらどうなるか。南あわじ市緑霊苑条例の第15条は、第1項で使用者または使用承継者が原状に復して返還することを定めたうえで、第2項をこう置いています。
使用者又は使用承継者が前項に規定する措置を行わないときは、市長は、これを執行し、その費用を使用者又は使用承継者から徴収する。
横浜市墓地及び霊堂に関する条例の第14条も同じ組み立てです。
使用者は、墓地又は霊堂を使用する必要がなくなったとき、使用権が消滅したとき、使用許可を取り消されたとき、又は使用許可期間が満了したときは、直ちにその使用場所を原状に回復し、市長に返還しなければならない。ただし、市長が特に必要があると認めた場合は、原状に回復することを要しない。
前項に規定する返還義務を有する者が使用場所を返還しない場合は、市長は、必要な措置を採ることができる。この場合において、市長は、当該措置に要した費用を徴収することができる。
放っておけば消える、という話ではない。市が代わりにやって、その費用を使用者・使用承継者から徴収する、と条文に書いてあります。
お金が用意できない、親族と連絡が取れない、寺の請求に納得できない。こうした場面は、条文を読んでも答えが出ません。法テラスは法的なトラブルの相談窓口を案内していますし、国民生活センターと各地の消費生活センターは寺や業者とのやりとりの相談先です。条文と条例で言えるのはここまで、というのが今回の結論。当てはめは専門家の仕事です。
墓じまいのあと、遺骨をどこに納めるかは墓じまい・仏壇じまいのカテゴリにまとめていきます。海への散骨を候補にしている方は散骨を後悔した人は実際にいるのかもどうぞ。遠方の永代供養へ遺骨を送ることを考えている方は、遺骨とゆうパックの記事に大手3社の「送れないもの」と運賃を並べています。
見直しは毎年9月。条文と公的Q&Aを同じ順番で開き直して、変わっていたところだけ差し替えます。